いわきのことと その1
江本祐介「ライトブルー」のMVが公開されたことで、現在一秒ごとにエモさがだだ漏れ状態になっているから、いまのうちに、いわきで過ごした日々を振り返ろう。
普段なるたけセンチメンタルな文章にならないようにっておもってるけど、まあ、どうしたってなるだろうな。あと僕は記憶の時系列が常に混乱しているから、いろいろ間違いもあるかも。
はじめて、いわきにいったのはいつだっけ。「あなたがいなかった頃の物語といなくなってからの物語」が終わった次の日か、次の次の日だっけ。
いわき総合高校を訪れた最初の日は、ちょうど帰省してたしゅんやさんも一緒だった。1人きりで女子高生20人の前に立てる気がしてなかったからすげー心強かった。演劇演習室に入ると、当たり前だけど女子高生が20人いて、それが当たり前ってことの当たり前じゃなさにクラクラした(あたりまえだのクラックラッカーと呼ぼう)
みんなも緊張してただろうけど、自分はきっとその数千倍緊張してた。
そして生徒たちの「あいさつ」がはじまった。
「あいさつ」っていうのは、いわ_総系列演劇生が毎回授業で行うもので、生徒たちのみで授業の最初の10分間話し合って作る短い作品のことを指す。
見ておもったまず最初の印象は、やっぱ圧倒的なキラキラ感だった。彼女たち自身のキラキラが、本人を飛び越えて空間全部をきらびやかにしてる。しかも、そのキラキラは光の輝きというより、水しぶきの一滴一滴が光を反射しているような、そんなキラキラだった。その輝きに一瞬目が眩んでしまったけれど、しっかりみると演劇でシークエンスを構成するっていうのがどういうことか肌感覚でわかってるんだろうなという作りになっていて、とても感心した。
この子たちとこれから一緒に作品作れるの、超楽しみだなあーって、このとき最初におもった。
それから自己紹介がてらにみんなの好きなものをきいて、タイトル作りのWSなんかもしたけど、緊張であんまり覚えていない。。。
覚えてるのは、授業のおわりに「僕はずっと高校生と作品を作ってみたくて、だから今回この機会をもらえてすごく嬉しいんだ」というようなことを伝えときの、みんなの表情。あ、みんなも楽しみにしてくれてるんだなって少し安心した。
夜は先生方と飲む約束をしていたのだけど、学校が終わるまで時間が空いたのでしゅんやさんにいわきを案内してもらった。
2人で「いわき市石炭・博物館ほるる」へ向かう。
前半が化石、後半が石炭ってつくりなってるんだけど、ほとんどの時間を化石コーナーに費やした。学芸員の方がどんな質問をしても120%で打ち返してくれるし、しゅんやさんもいちいちリアクションが素晴らしくて最高のコール&レスポンスを目の当たりにできた。入り口前の本物の化石を当てるミニコーナーだけで30分近く楽しめた。
で、閉館が近づいたので急いで石炭コーナーへ移動しようとエレベーターに乗るとそっからしゅんやさんはそれまでのイキイキした姿が嘘みたいに「こわいこわい」しか言わなくなって(たしかにエレベーターの演出はちょっとこわい)みる、というか、通り過ぎるだけで終わった。
ほるるをでても、まだしばらく時間があったので海にいった。
僕自身が小学校三年生まで海で育ったということもあって、ロロの作品ではしばしば海のシーンがでてくる。「あなたが~」の終盤でも海が登場した。
海をみながらしゅんやさんとなにを話したかも覚えてない。なにも話さなかったのかもしれない。
それから車で少し仮眠して、駅前の居酒屋で先生方と合流。
ここでの居酒屋での会話の詳細も書かないけど、とにかくとびきりたのしかった。先生方それぞれが、先生っていうより人としてとびきりチャーミングで魅力的だった。また先生たちと飲みたいなあ。
こうして、僕のいわき滞在1日目はおわった。
それから何度かWSのためにいわきへ行き、ついに、2週間での滞在稽古になる初日、かなこ先生の車に乗って校門をくぐると、三階の演習室の窓からこっちを覗き込む生徒たちの姿がみえた。
思い返すと、そういえば彼女たちはいつもあの窓から僕を出迎えてくれた。再会するとき、僕はいつも彼女たちを見上げてた。
校舎に入ると、フロアごとに生徒たちが待ち構えていて、なぞかけだったり「私を倒せ」的な無理難題をふっかけてきた。僕を迎え入れるために考えてくれたらしい。難敵たちを赤面しながらなぎ倒してなんとか頂上の演習室にたどり着くと、室内では生徒たちが歩きながらウインクキラーを行っていた。
「5分以内(10分だっけ?)に犯人を見つけられなければ一発芸をしてもらいます」
唐突に宣言されてカウントダウンが始まる。
え、まじかまじかまじか。
急激に冷や汗がとまんなくなる。
い、っぱつ、げい……。
女子高生に囲まれながらおじさんが一発芸でダダ滑りする以上の悲劇なんてあるだろうか
これは絶対に失敗はゆるされない。滑ってさらにドン引きされて信頼関係を築く以前になにもかもを失って公演も失敗してみんなにとっても「魔法」が黒歴史になる未来が見える。
一瞬でそう判断した僕は、いわき滞在期間中で1、2を争う集中力を発揮してこの難局をなんとか乗り切ってみせた。まじで「瞬きもせず彼女たちをみつめてた」
「魔法」の上演を成功させられたのは、この日ウインクキラーの犯人を見つけられたからだって、少し思ってる。
(つづくよ)