ショクパンヨリフランスパン

演劇以外の日々の、備忘録

長嶋有「三の隣は五号室」のことと、サウナつかさ新城のことと。

武蔵新城のアパートから12月中に出なければいけなくなったので、友人のKくんに手伝ってもらって部屋を片付ける。

 新城に住むのを決めたのは、特にたした理由があるわけじゃなくなかった。強いて言えば多摩川の河川敷が近かったから。台本が書けない時期は、夜中によく河川敷をウロウロと歩きまわった。川の側に腰掛けて、イヤホンをつけずに、音量MAXでiPhoneから音楽を流したりもした。音楽が向こう岸に溶けていく感覚が好きだった。

 片付ける前に『麺や 新のすけ』で腹ごしらえ。

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武蔵新城でもっともたくさん食ったのはここのトマトタンタン麺で間違いない。ひき肉と酸味の効いたトマトスープと麺が三位一体となって「一体、僕はいまなにを食べてるんだろう?」という唯一無二の気持ちにさせてくれる。創作ラーメンの種類がめちゃめちゃ多いんだけど、結局いつもトマトタンタン麺を頼んでしまったなぁ。ちゃんぽんも美味そうだったんだけどなぁ。

 で、部屋の片付け。捨てる&捨てる&捨てるを繰り返す。捨てるか残すか迷った瞬間に片付けられなくなる気がしたので、思考より速いスピードで捨てまくる。次第に、自分の記憶を掘り起こしてるような気分になる。テレビの側には『朝日を抱きしめてトゥナイト』を書いてた頃に読んだ本が大量に積まれているし、ベッドの横には『ロミオとジュリエットのこどもたち』の頃の苦悩のメモが投げられてる。ロロ旗揚げの頃の写真もみつかった。再演してーなー。

思い出に浸りすぎて片付けが進まない引っ越しあるあるに飲み込まれるまえに、再び捨てる&捨てる&捨てる。

 

片付けながら、長嶋有『三の隣は五号室』のことを思い出す。

三の隣は五号室

三の隣は五号室

 

 僕が物語に最も心を揺さぶられるのは、現実では繋がらない人たちが「物語の力」によって繋げられる瞬間で『三の隣は五号室』には、そんな瞬間がいくつも詰まってる。

第一藤岡荘五号室に暮らした13世帯の人々のエピソードが時系列を行きつ戻りつ語られる。登場人物たちは、あるときは外から聞こえる雨の音を通して、あるときは部屋の停電を通して、ゆるやかに繋がっていく。でも、彼/彼女らがその繋がりに気づくことはない。気付けるのは、この小説を読んでいる読者だけだ。

部屋に一人で過ごしていると、たまに猛烈な孤独感に苛まれることがあるけれど、この小説はそんな気持ちを優しくさりげなく肯定していく。

 登場人物の一人、五十嵐五郎が風邪をひいて部屋で寝込みながら雨の音を聴いてるシーンでこんな描写がある。

 トタン屋根みたいな雨音を立てるボロい家に、三十過ぎて職業も定まらぬ男が熱を出し布団の中で膝を抱えている。普段はそのほとんどを自覚していてかつ平気だのに、風邪は単純に気持ちを弱らせる。(中略)

 同時に、寂しさの鋳型にすっぽりはまってしまったみたいで、むしろ心安らぐ気もした。女の子が、継母にいじめられる想像でわんわん泣いて気持ちいいみたいなことかしら。もう一度笑いそうになってまた咳が出て、立ち上がってティッシュを使い、ティッシュボックスを枕元に据え直した。雨音にも慣れ、寂しさも消えた。本当は寂しさは消えたのではないのかもしれない。人はいつも寂しくて、普段思い出さないだけなのだ。自分はなんだか詩的なことを考えているな。

 思わず五郎に「俺もおんなじように寂しくなったことあるよ!」っていいたくなった。「その寂しさ俺もしってるよ!」って。

部屋で一人きり誰にもみられていない時間のふとした瞬間に顔をあらわす寂しさ。

いつかの僕の寂しさ(タバコに火をつけたときとか、寝ようとして電気を消した瞬間とか)は、もちろん僕だけの寂しさだけど、おんなじ場所でかつて誰かも、その人だけの寂しさをきっと抱えてた。そう思えると気持ちが少しだけ楽になる。「三の隣は五号室」を読んでいると、誰かへと想像力がどこまでも伸びていく。

それぞれの孤独が、孤独なままで連帯していくかんじがする。孤独なのに一緒。

あと、長嶋さんは、いつも固有名詞の使い方が抜群にうまいけど、今回ももちろん健在で、個人的には「第六話 ザ・テレビジョン!」のテレビ史を語りながら住人たちを繋いでいくのが最高だった。SMAPが登場するのも嬉しいし、木村拓哉って時代だったよなーって改めておもった。

 新城の部屋を片付ける最後、押入れに小説をこっそりと忍ばせた。この次に住む誰かがページをめくってくれる姿を想像してみた。読んでくれるかなあ。

 片付けを終えて、Kくんとサウナに行くことに。周辺をいろいろ調べた結果、もっともミステリアスな『サウナつかさ新城』へと向かう。

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これが大正解。

まず入った瞬間の店主の「近くに銭湯あるよ?うち高いけど大丈夫?」という言葉に鷲掴まれる。なんたる気遣い。

浴室内で流れる演歌、ウォーターサーバーの横に置かれている塩、無造作に置かれるエアロバイク、二種類の水風呂(22度くらいと、17度くらい。しかもほぼ水の流れを感じない!!)広々としたサウナ・・・。

いちいち良かった。隅々に旅情を感じる。

サウナのテレビではちょうど「M-1グランプリ」が放送されていた。漫才をみて、CMになったら水風呂へ走り、すぐさまサウナに戻ってまた漫才ってルーティンは、忙しないけどこれ以上ない至福の時間だった。さらば青春の光の森田さんの声はマジで宝物。

 M-1を見終たので、館内着に着替えて(館内着の刺繍もチャーミング)二階に上がり小休憩。さきほどの店主がヤクルトをくれた。

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飲みながらダラダラと横になる。部屋を片付けてる最中は鬱蒼としていたKくんだったが、今では目をキラキラさせながら「幸せだ~」と連呼している。サウナに入れば、誰しも問答無用でポジティブになれる。

 その後、再びサウナと水風呂を堪能して、サウナつかさを後にし、『とり岡』で鳥を食らう。

「油す」という謎のメニューがオススメらしいので頼んだけど、これがまー美味しい。

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ネギと鶏肉って間違いない組み合わせですね。串焼きも全部うまかった。

 帰り道、多幸感で死にそうになってるKくんだったが、次の日には、寂しさで死にそうになってるらしかった。

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