ショクパンヨリフランスパン

演劇以外の日々の、備忘録

いわきのことと その4

「魔法」の振り返りが終わってない、もうすぐ二年が経つっていうのに。2017年の振り返りも途中でとまったまま。かぶりをふったら情けないポーズで固まってしまい、時間だけがどんどん先へと進んでいってる。ぼくをいわき総合高校へとよんでくれた夏菜子先生も、今年の春に別の学校へと転勤した。時間よ時間。記憶を語るための言葉をぼくはたぶんたくさんなくしてしまってるだろうけど、振り返る。

 

劇場入りしてからは、自分の中のエモが極まりすぎてことあるごとに別れるまでの時間を頭の中でカウントしていた。先生方や下級生やスタッフやが前日に仕込みを終わらせてくれていた。劇場前の広場で生徒たちが鬼ごっこをしながらアップをしている。ぼくが遠くで眺めていたら、彼女たちが気を使ってまぜてくれた。此の期に及んで気を使わせる自分。女子高生と全力で鬼ごっこをした末、見事に腰をぶっこわした。

リハーサルが始まる。劇場でみる彼女たちは稽古場のときよりもいくらかこわばっていた。声とか体が空間に満ちていない。ロロの公演のとき、ぼくがおこなう最も雑な演出の一つに「なんかここでみんなでなんか騒いでください」というものがあるので伝えてみたけれど、抽象的かつ大雑把な言葉すぎて彼女たちの身体を軽くすることはできなかった(ロロでも今後はやめなくちゃなと痛感した)。リハーサルは、ふざけたこと、ばかみたいなことを劇場に満たしていく作業だった。餌を散らばせば、彼女たちはのびのびとそれに飛びついて自由気ままに調理してくれる。ばかばかしさが少しづつ広がっていく。リハーサルは音響のノブとぼくが延々もめ続ける以外は大きなトラブルもなく進んでいった。ノブと俺はひたすらもめ続けて、夏菜子先生が傍でずっと見守ってくれていた。

 

初日。本番前はいつも緊張して一人で「おえおえ」いってるのだけれど、今回はももクロのライブ前の川上マネージャーをイメージしながら彼女たちの士気をあげようとおもっていた。おもっていただけでうまくできなかった気がする。

1ステージ目のパフォーマンスはあまりいい出来ではなかった。これまでの彼女たちにくらべてずいぶん窮屈そうにみえてしまった。終演後のフィードバック、1ステージ目を終えて達成感に満ちた表情で車座になってる彼女らにむかってそのことを告げると、みんなみるみるうちに悲しそうな顔へと変わっていく。夜の公演にむけてできる限りの修正を行って2ステージ目へ。

この日は、卒業公演の前に行われたアトリエ公演の演出を担当した危口さんと、危口さんのサポートとして携わっていたつじこさんもきてくれた。つじこさんが彼女たちに伝授してくれた発生練習には稽古期間中とても助けてもらった。危口さんとは初日夜公演のあとアフタートークをする予定だった。ぼくは危口さんに会うと「バカだと思われたくないスイッチ」が押されてしまっていつもなかなかうまく話せない。だから危口さんとはだいたいハンターハンターの話をしてた気がする。「ハンターハンター再開しましたねー」か「ハンターハンター休載しましたねー」のどちらか。ちょうど冨樫の連載ペースくらいの頻度で危口さん会っていた。最近、ハンターハンターはまた休載してしまった。

夜公演の出来はとてもよかった。炸裂ってかんじだった。振り付けで参加した桃子は泣いてた。この公演期間中桃子はやたらと泣いていた。彼女らにそのことを伝えると「なんで1ステージ目からできなかったんだろう」と悔しがっていた。そういえば、ぼくは演劇のステージごとの善し悪しの根拠がいまだによくわかってない。よかったとかわるかったとかおもうし細かい部分はその都度なおすけど、そうじゃないもっと漠然とした空気感の根元はどこにあるんだろう。言語化出来なくたっていい気もする。演劇初めてもうすぐ10年になるのにまだよくわからない。他の演出家はどうなんだろう。そもそもステージごとの善し悪しみたいな物差しをもってなかったりもするんだろうな。

危口さんとのアフタートークでは出演者に「あいさつ」をしてもらった。危口さんがお題をだして舞台上で彼女たちが短い作品を作り始める。作ってる最中に夏菜子先生を交えながらトーク。できあがったあいさつに対して危口さんのダメ出しは容赦なかった。観客席が「そこまでいう?」とひいていくのが手に取るようにわかっておもわず笑ってしまう。彼女たちはどんどん落ち込むし、それでも危口さんの言葉は一向に鈍らなかった。アフタートークを終えて、楽屋に戻ろうとしたら、舞台袖に置いてあるホワイトボードに危口さの描いてくれたぼくの似顔絵が描いてあった。ぼくの知ってる普段の危口さんのタッチに比べるとやたらとポップでかわいらしかった。

初日がおわり、公演をみにきてくれたロロメンバーも交えながら初日打ち上げ。メンバーもみんな喜んでくれていた。明日はいわきを観光するというので「石炭・化石館ほるる」をすすめた。わいわいがやがやと深夜まで。

深夜、ベロベロになっている最中にSMAP解散報道が飛び込んでくる。衝撃のあまりしばらく動けなかった。

 

二日目。つまり最終日。本当は前日に帰るはずだった桃子も最後まで見届けるべく残ってくれた。本番前の彼女たちは「さみしいさみしい」と言っていたが、確実に俺の方がさみしかった。夏菜子先生にだけそのことを伝えた。

昼公演のあとにも危口さんとのアフタートークがあった。終演後、袖にやってきた危口さんは「今の回よかったねー」ととても嬉しそうに笑顔で話しかけてくれた。たしかにとても良い回だった。そしてアフタートークで再び行われた「あいさつ」は謝罪会見を模したパフォーマンスでとてもおもしろかった。危口さんの感想は、自分の好みをうまくついてきてずるいとのこと。ぼくが素直に褒めればいいじゃないですかと笑いながらきいたら「ずるいっていうのはぼくのなかでは褒め言葉なんです」って言っていた。

アフタートークを終え、危口さんは最後の回もみたいなーと言いながら名残惜しそうに帰って行った。「ほるる」に行ったメンバーたちから写メが送るられてくる。あまり盛り上がっていない様子だった。そして、いよいよ残すところ1ステージ。「魔法」のラストは江本祐介「ライトブルー」を流しながらみんなで踊るシーンで、江本さん含めたエンジョイミュージッククラブの三人が最後の回をみに来ることになっていた。生徒のみんなには内緒にしていた。

ラストステージをみてる最中、とにかく一挙手一投足を脳に刻み付けるつもりでみていた。一瞬一瞬を焼き付けてやろうと。だけどやっぱり二年が経って、すこしづつ記憶は薄れてきている。この期間中、彼女たちとたくさんの写真を撮った。それらはiPhoneに残ってる。見返しながらいまこの文章は書いていて、写真をみている最中は鮮明だった記憶たちは、写真を閉じてキーボードを打っていくうちにどんどんぼやけていく。

カーテンコール、彼女たちがぼくを手招きして一緒に舞台上にあがる。堂々とした20人の女子高生と一緒に、挙動不審にきょろきょろしながら頭を下げたのはおぼえてる。

 

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